コラム
共有不動産の任意売却、共有持分のみでもできる?進め方・注意点を解説
投稿日:2024/05/02 更新日:2024/05/02
共有名義の不動産を所有していると、共有者間のトラブルや金銭的な理由から売却を検討する必要が出てくることがあります。
例えば、住宅ローンの返済が困難になった場合や、別居・離婚により共有関係の解消を望む場合などです。
そんな時に選択肢の1つとなるのが「任意売却」です。
任意売却とは、強制的な競売ではなく、共有者間の合意のもと不動産を売却する方法を指します。
注目すべき点は、共有持分のみの売却も可能な場合があることです。
本記事では、共有名義不動産の任意売却について、その定義から共有持分のみの売却が可能かどうか、メリット・デメリット、具体的な手順、注意点などを詳しく解説します。
任意売却を検討中の方は、ぜひ参考にしてください。
共有名義不動産の任意売却とは
さて、まず任意売却とはどのような売却方法なのか、その全容を確認していきましょう。
任意売却の概要や特徴、行う上での狙いなどの基本的な事項から入っていきます。
共有名義不動産の売却を検討する際に欠かせない基礎知識を押さえましょう。
任意売却の特徴
任意売却とは、住宅ローンなどの債務を完済することが出来ない状態で、債権者(金融機関)から合意を得て、抵当権のついた不動産を売却することを指します。
通常、抵当権がついた不動産は売却できません。
なぜなら、債務者(ローン契約者)が返済を滞納した場合、差し押さえのリスクがあるためです。
そのため、まず買主が見つからないのが実情です。
したがって、不動産売却の際は、物件に設定された抵当権を必ず抹消する必要があります。
しかし、物件の売却可能金額(市場価格)が住宅ローンの残債を下回っている場合、得られた代金では債務の完済ができません。
こうした「売却可能金額<ローン残債」の状態をオーバーローンと呼び、金融機関は抵当権の抹消に応じません。
つまり、オーバーローンの状態では、抵当権が抹消できないため、不動産の売却は極めて困難になってしまうのです。
任意売却は、このオーバーローン状態において、債権者の合意を得ながら売却を実現する方法なのです。
任意売却を検討する理由(ローン返済困難等)
共有名義不動産の任意売却を検討する主な理由は、住宅ローンの返済が困難になったためです。
借入当初は問題なく返済できていても、様々な事情で収入が減少すれば、ローン返済が重荷になる可能性があります。
具体的には、失職や退職、事業不振による収入減などが挙げられます。
また、病気やケガなどで働けなくなった場合も、収入が途絶えてしまいます。
さらに、離婚による生活の激変といった家庭の事情も、返済を困難にする一因となり得ます。
一方で、任意売却は金銭的な理由だけでなく、共有者間のトラブルを解消するために選ばれる場合もあります。
例えば、別居や離婚の際に共有関係を解消したい、相続に伴う共有持分の整理が必要になった、などの事情が考えられます。
このように、任意売却は住宅ローン返済が滞るなどの金銭的理由と、共有者間の人間関係に起因するさまざまな事情から、検討を余儀なくされる場合があるのです。
共有持分の任意売却が可能か
任意売却は共有名義の不動産を売却する方法ですが、実は共有持分のみの売却も可能な場合があります。
つまり、共有者全員の合意がなくても、自身の持分に限れば売却できる可能性があるのです。
ただし、共有持分のみの任意売却ができるかどうかは、一定の条件があります。
共有者全員で不動産を保有し続けるのか、それとも一部の持分を切り離すのかによって、手続きが大きく異なってくるためです。
この章では、共有持分の任意売却が可能となるケースとについて解説します。
任意売却を検討する際、自身の立場を正しく理解することが重要です。
共有持分のみの売却の可否を判断する上で欠かせない情報を確認していきましょう。
共有持分のみの任意売却が可能な場合
共有持分のみの任意売却が可能となるのは、以下の2つの場合です。
【場合1】共有者全員の同意がある場合:
共有者全員が共有持分の売却に同意していれば、任意売却を行うことができます。この場合、共有者間で売却の是非や条件などを十分に協議し、合意を形成する必要があります。
【場合2】共有持分が単独所有物件化している場合:
共有不動産を分割して、自身の持分部分を単独所有物件化していれば、その部分のみを任意売却することが可能です。単独所有物件化するには、共有者間で持分の分割と登記を行う必要があります。
一方、共有持分が単独所有物件化されていない通常の共有状態では、一人の共有者が単独で持分の任意売却を行うことはできません。
他の共有者の同意なく売却を強行すれば、共有関係を無視したことになり違法となるためです。
つまり、共有持分のみの任意売却が可能かどうかは、共有者全員の合意があるか、自身の持分が単独所有物件化されているかによって判断されます。
状況に応じて手続きが変わってくるため、注意が必要です。
共有持分のみの任意売却をする上での注意点
共有持分のみの任意売却を行う場合、大きな注意点が一つあります。
それは、共有持分のみでは買手が見つかりにくいという点です。
共有持分だけでは、不動産を自由に活用できません。
また、他の共有者との権利関係でトラブルに巻き込まれる可能性もあります。
そのため、一般の個人や不動産業者は、共有持分のみの買取には応じがたい傾向にあります。
したがって、抵当権の設定された共有持分のみの任意売却を検討しているのであれば、専門の共有持分買取業者に相談するのが現実的な選択肢となります。
共有持分買取業者は、時間をかけて他の共有者との信頼関係を築き、トラブルを起こすことなく不動産を再活用するプロです。
そのため、あなたの共有持分のみであっても買い取ってもらえる可能性が高くなります。
任意売却のメリット・デメリット
任意売却は共有名義不動産を売却する有力な選択肢の一つですが、メリット・デメリットを十分に理解しておく必要があります。
任意売却にはさまざまなメリットがありますが、一方で手続きの複雑さや共有者間の調整の難しさ、費用負担などのデメリットも存在します。
売却を円滑に進めるかどうかは、これらのメリット・デメリットをどう捉えるかにかかっています。
この章では、任意売却のメリットとデメリットをそれぞれ丁寧に解説していきます。
任意売却の長所と短所を客観的に比較検討することで、自身の状況に合った適切な判断を下せるようになるでしょう。
不動産の売却は、大きな決断が必要です。任意売却のメリット・デメリットを十分に把握し、慎重に検討を重ねましょう。
共有不動産の任意売却のメリット
【競売を回避できる】 任意売却の最大のメリットは、競売による強制的な不動産売却を回避できる点です。
競売は、債務不払いなどで差し押さえられた場合に行われる強制的な手段です。
競売では希望する価格で売却できないリスクがあり、プライバシーの侵害など精神的なダメージも大きくなります。
任意売却なら、このようなリスクを回避できます。
【債務整理が可能】 任意売却で得た代金を住宅ローン残債の返済に充てることができます。
オーバーローン状態でも債権者の合意があれば、一部債務の免除が可能です。
債務整理により経済的な再生を図ることができます。
このように、任意売却は強制的な競売を避けられ、債務整理も期待できるというメリットがあります。
売却を検討する際には、これらの長所を押さえておきましょう。
共有不動産の任意売却のデメリット
一方で、任意売却にはデメリットもあります。主なものは以下の通りです。
【共有者全員の合意が必要】
任意売却を進めるには、共有者全員の合意が原則として必要です。
共有者間で売却の是非や条件などについて調整を重ね、全会一致の合意形成を図る必要があります。
合意がなければ任意売却は実現できません。
【時間とコストがかかる】
共有者間の調整に加え、債権者との交渉、専門家への相談、売買契約の締結など、任意売却には多くの手続きが伴います。
これらにかかる時間とコストは決して小さくありません。
【売却価格が割安になるリスク】
任意売却の場合、通常の売買より売却価格が割安になる可能性があります。
債権者への早期返済を優先させるため、期待価格を下回る売り渡しに同意せざるを得ないケースがあるためです。
このように任意売却には、共有者間の調整の難しさや手続きの複雑さ、割安での売却リスクといったデメリットがあります。
メリットとデメリットを慎重に見極めた上で、任意売却に踏み切るかどうかを判断する必要があります。
共有名義不動産の任意売却手順
任意売却のメリット・デメリットを理解した上で、実際に任意売却を進める場合は、適切な手順を踏む必要があります。
手順を誤ると手戻りが生じたり、トラブルに発展したりする可能性があるためです。
任意売却の手順は、大まかに以下の5つのステップに分けられます。
1.債権者への事前相談・交渉
2.専門家への相談と売却準備
3.債権者と返済額について交渉
4.売買契約の締結
5.代金の決済と登記手続き
この章では、これらの具体的な手順について、ポイントを押さえながら詳しく解説していきます。
共有名義不動産の任意売却は決して簡単なプロセスではありませんが、適切な手順を踏めば無事に売却を済ませることができます。
手順を一つひとつ丁寧に確認し、スムーズな任意売却を実現させましょう。
売却を着実に進められるよう、欠かせない情報を確認していきましょう。
①債権者への相談・交渉
任意売却の手順の第一歩は、債権者(金融機関など)への早期の相談と交渉です。
債権者の承認なくしては任意売却を進められないだけでなく、できるだけ早期に相談することが重要となります。
まずは債権者に対し、なるべく早期のうちに任意売却を希望する旨と、その理由を具体的に説明します。
理由としては、共有者間のトラブルや収入減少による返済困難などが考えられます。
状況が深刻化する前に、前向きに相談に臨むことが求められます。
債権者との交渉は、任意売却を実現するための最重要ステップです。
早期に状況を正確に伝え、債権者の理解を得られるよう、きちんと説明を尽くし、合意形成に努める必要があります。
この交渉次第で、任意売却の行方が決まるといっても過言ではありません。
②不動産業者への相談・売却準備
債権者との交渉が整った次は、不動産業者を選定し、本格的な売却準備に入ります。
ただし、注意が必要なのは、どの不動産業者でも任意売却を取り扱うことができるわけではないという点です。
任意売却は一般的な売買取引とは異なる専門性が求められます。
そのため、任意売却の経験と知識がある業者を選ぶ必要があります。
債権者からの紹介や、任意売却対応業者のウェブサイトなどを活用して、適切な業者を探しましょう。
不動産業者に依頼すると、物件の改めての査定や購入者開拓、売買契約書の作成など、売却に向けた準備が進められていきます。
任意売却特有の手続きについても、不動産業者から適切なアドバイスを受けられます。
この準備段階では、売却スケジュールやローン完済までの具体的な計画を立てることも重要です。
債権者との合意内容に基づき、できる限り早期の売却とローン返済を目指す必要があります。
不動産業者の選定を誤ると、後々トラブルに発展する可能性もあります。
任意売却に精通した業者を見極め、確実な売却に向けた準備を怠りなく進めていきましょう。
③債権者と返済額について交渉
不動産業者から物件の査定額が出た後は、債権者と任意売却後の返済額について再度交渉を行う必要があります。
さらに複数の債権者(抵当権者)がいる場合、より複雑な調整が必要となります。
それぞれの債権者と担保解除料(抵当権抹消の手数料)の交渉や、債権順位に応じた返済額の割り振りなど、債権者間の調整作業が加わるのです。
繰り返しになりますが、こうした債権者対応を個人ですべて行うことは非常に難しいでしょう。
書類の準備から移動、複雑な交渉など、精神的にも肉体的にも負担が大きくなります。
このため、売主は任意売却に精通した不動産業者や、提携する弁護士・司法書士などの専門家にアドバイスを仰ぎ、サポートを受けることが必須となります。
債権者との交渉は任意売却の肝となる部分です。
専門家の力を借りて、適切な調整を行うことが賢明でしょう。
④売買契約の締結
債権者との交渉が整い、購入候補者が見つかれば、売買契約の締結に入ります。
まずは売買契約書の内容を確認します。
契約書には物件の概要、売買価格、引渡し期日、手付金や中間金の支払い条件など、取引の重要事項が細かく記載されています。
不動産業者からの説明を受け、内容に不備がないかどうかを慎重にチェックする必要があります。
次に、売主と買主の双方が契約書に署名または記名捺印を行い、売買が正式に成立します。
契約時には、売主側から手付金を受け取ることが通例です。
その後、引渡し期日までに売買代金の残金と事務手数料等を一括で支払い、物件の所有権移転手続きに入ります。
任意売却の場合、代金から抵当権の抹消手続き代金を差し引いた額が、債権者に支払われます。
売買契約締結は、任意売却の大きな節目です。
契約内容を誤ると後に修正が効かなくなるため、細心の注意を払う必要があります。
不動産業者の仲介を受けながら、スムーズな契約締結を心がけましょう。
⑤代金の決済と登記手続き
売買契約書に明記した決済の当日(契約と同日の場合もある)に、売却代金を口座振り込みで受け取ります。
決済と同時に、債権者へローンの返済を行います。
その後、担当の司法書士が債権者から「抵当権抹消登記に必要な書類一式」を受け取り、「抵当権の抹消登記」と「所有権の移転登記」を行います。
これらの手続きが完了すれば、任意売却は無事終了となります。
適切な専門家の指導を仰ぎながら、確実に進めていく必要があります。
まとめ
共有名義不動産の任意売却は、競売を回避しつつ債務整理や出資金の一部回収を図れるメリットがある一方で、共有者全員の合意が必要であったり、手続きが複雑であったりとデメリットもあります。
任意売却を実現するには、まず債権者への早期の相談と交渉から始める必要があります。
次に専門の不動産業者を選定し、売却準備を進めていきます。
そして債権者との返済額の最終調整、売買契約の締結、代金決済と登記手続きと、一つひとつの手順を着実にこなしていく必要があります。
特に複数の債権者がいる場合は、債権者間の調整が重要になり、書類の準備から移動、複雑な交渉と、個人で行うには過酷な作業となります。
このため、不動産業者や弁護士・司法書士などの専門家にアドバイスを仰ぎ、サポートを受けることが強く推奨されます。
任意売却は決して簡単なプロセスではありませんが、メリット・デメリットを冷静に見極め、適切な手順を踏めば実現可能です。
共有名義不動産の売却を検討する際は、本記事を参考に、理解を深めていってください。
大学時代に自営業を営んでいた実家が競売直前に売却することなってしまった経験から「住宅ローンについて相談する場所が必要!」と痛感し、非営利団体を設立し『住宅ローン無料相談所』を開設しています。
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